青柳カヲル

ZOCとは、ウィキペディアによると、「影響範囲」という意味のロールプレイングゲーム(RPG)の用語、だそうです。日本でRPGといえばファンタジー世界を舞台としたものが代表的です。そしてジャケットの死神衣装からも分かる通りこのアルバム全体がファンタジーゲームのイメージで統括されています。
この曲はそのコンセプトをわかりやすく突きつけて高らかに宣言する象徴的な曲だと感じ、選びました。ドラクエで言えばロゴマークが出てテーマ曲が流れるあのシーンに相当する曲です。「死神」はその前の文字が流れて歴史などを説明するプロローグです。(※勝手な解釈です)
とにかくこの曲を皮切りに「7:77」という曲まで6曲続けて様々な外的対象とバトルする大変テンションの高い曲が怒涛の勢いで続き、クエストをこなしレベルアップするようにボルテージがどんどん上がっていきます。6曲の個々の曲調のテイストはバラエティに富みながらも、どこか共通したドロドロとした濃密さがあり、6曲が全部で1つの曲のようで、その濁流はまるで、インターネットがまだ野性味のあった90年代から2000年代にかけての亡霊を悪魔召喚し百鬼夜行をさせているかのような迫力があります。これは過去を召喚し現代を総括せんとする、大森さんなりの平成へのレクイエムなのではないかと感じました。
さらに面白いことにこのゲームはこの「PARTY(ファンタジー)モード」だけでは終わりません。それを操縦しているゲーム的に割り切れない肉体がせせり上がる「わたしみ(現実)」モードがあります。このフィクションとメタフィクションと現実を行き来する引き裂かれた自意識がまさに大森靖子であり現代の多くの人に刺さるリアリティなのではないでしょうか。ここまで自意識が入れ子構造になった作品世界を音楽のアルバムで実現するなんてやっぱり大森さんは天才です。